Chapter.6
「貴様等があそこを嗅ぎ回っていた事は知っている」
「貴様達の連れにも昨夜忠告したが…これが最後通達だ」
「今日、貴様等が見た事は一切合財忘れろ」
「そして、我々の事を嗅ぎ回るのもこれきりにしろ。さすれば命は助ける」
次々に言う黒尽くめたち。カインは彼らを見据えながら。
「ちなみに…昨日の夜お前たちが襲った俺の仲間達はどう言った?
そして…その返答にお前たちはどういう行動を取った?」
問い掛けるカインに、躊躇無く黒尽くめの一人が斬りかかる。ブーメランでその一撃をカインは受け、弾き返す。
「これがお前達の…答えか」
カインが一撃を凌いだ後、黒尽くめ達に向き直って問い掛ける。黒尽くめ達は再度無言で刃を構える。
「あの教団に…何があるの!?」
思わずサラが問い掛ける。黒尽くめたちは無視すると思ったが、
「貴様等は知らなくて良い事だ…忘れるか、ここで我らに消されるか。
貴様等の選択肢は二つに一つ。どちらを選ぶかは貴様等の自由だ…」
「悪いけど…私達は引く気はないわ!」
「サラと同じく。今、ヴェントタウンで起こっている事件とあの教団の関連性は調べさせて貰う」
「仕方ない…ならば消えろ」
言うが早いが、再び黒尽くめたちは矢継早にスローイング・ダガーを投げ放つ。
「水舞幕!!」
いつ気法の詠唱を行っていたのか。サラが気法で幕状の水の結界を発生させ、飛び交うスロ
ーイング・ダガーを水の幕でいなして防ぐ。
「ありがとう、サラ」
「どういたしまして」
微笑みながら言葉を交わす二人。
「それより…来るわよ、カイン!」
「ああ、判ってる…サラ、行くぞッ!!」
「任せてッ!」
二人は武器を構えて、向かい来る黒尽くめ達に切り込む。
「シュッ!!」
短い呼気と共に、黒尽くめの一人がダガーを振り上げる。サラはその一撃を槍の穂先で受け止め、弾いて切り帰す。
三段突きから斬り降ろし、横薙ぎの一撃、柄頭での突き。
サラと対峙している黒尽くめは、すんでのところでそれらの攻撃を避け続けている。
ギリギリまで攻撃を引き付け、最小限の動きで攻撃を避ける。そして再び黒尽くめの反撃。
サラと斬り結んでいる黒尽くめは一進一退の攻防を繰り広げていた。
「ヤアッ!」
サラが放った、槍の柄による横薙ぎの一撃が黒尽くめの胸元を捕らえる。
そのままサラは体を捻って半回転し、今度は刃で薙ぎ払う。遠心力を加えた一撃は、斬撃と共に衝撃をも叩き込む。
傷こそさして深くなかったものの、今の一撃を受けた黒尽くめはその場に崩れ落ちる。
「おのれ…!」
別の黒尽くめがサラに駆け寄る。
「飛水針翔!」
サラは予め詠唱を済ませていた気法を発動させる。気法によって生み出された水は無数の水の針と化し、黒尽くめに飛来する!
水の針は黒尽くめを瞬く間に捕らえ、貫く。一つ一つの傷は決して深手ではないものの、傷の数が数なだけにそのダメージは大きい。
呻いて、その場に膝を付く。
一方、カインも二人の黒尽くめと斬り結んでいた。
ガキン! ガィィン! キンッ! カァンッ!
引っ切り無しに鼓膜を叩く剣戟の音。カインと二人の黒尽くめの攻防が激しい事を物語っている。
時間差で繰り出される黒尽くめ達の刃をいなし、その勢いでブーメランによる突きを放つ。
続けざまに体を捻りつつ沈め、足払いの如き横薙ぎ。
さらにその勢いを利用してそのまま一回転し、今度は腹部を斬り付けるカイン。
遠心力を加えた一撃を立て続けに受け続け、黒尽くめの一人が体勢を崩す。
その隙を逃さずカインは鋭く踏み込み、踏み込みの加速を加えた袈裟懸けの一閃を放つ。
カインが放った渾身の袈裟斬りは、黒尽くめの肩口を正確に捕らえた。
その一閃を受けた黒尽くめはもんどりうって倒れる。
致命傷ではないものの、的確に急所を捉えられたため、そのダメージはかなり大きい。痛みに喘ぎ、その場で蹲っている。
「貴様ァ!」
仲間を倒され、吼えてカインに斬りかかるもう一人の黒尽くめ。
怒りは覚えているものの、冷静さは失っていないようである。
カインを睨むその目はギラついているが、行動そのものは極めて平静だった。
繰り出される剣閃も速度が上がっており、その上正確さも上がっていることからもそれが伺える。
ガッキ!!
大上段から振り下ろされたダガーを、カインはブーメランを掲げて受け止める。
暫しそのまま睨み合い、程無く鍔迫り合いの状態にもつれ込む。
黒尽くめが押してはカインが押し返し、押し返したカインは黒尽くめに再び押し返される。
長時間に及ぶと思われたこの鍔迫り合いだが、均衡はそう長くは続かなかった。
押し返そうと黒尽くめが力を込めた瞬間を狙って、カインは不意にふっ、と力を抜いた。
思い切り力を込めていた黒尽くめ。当然、カインのこの行動によって思い切り前によろける。
その隙をカインが見逃すはずが無い。
鳩尾に思い切り肘打を叩き込み、前のめりになったところに今度は顎目掛けて飛び膝蹴りを食らわせる。
今のカインの飛び膝蹴りで口腔内を切ったらしく黒尽くめの着けている覆面の口元が紅に染まる。
カインは追撃の手を緩めず、さらに仰け反っている黒尽くめの胸板を思い切り蹴り飛ばす。蹈鞴を踏んで、後方に倒れこむ。
「轟風波!」
倒れた黒尽くめにカインは気法で風の衝撃波を放ち、さらに追撃をかける。
風の衝撃波に打たれた黒尽くめは短く呻く。さらに間髪置かずに。
「翔風刃!」
カインは気法で風の刃を生み出し、黒尽くめが持っていたダガーの刃を斬り飛ばす。
そして黒尽くめの腕を足で抑え、腕を動かせないようにした上で首筋にブーメランを突きつける。
「これ以上抵抗するな」
今度は逆にカインが通達を行う形になった。
黒尽くめは憎々しげに顔を歪めるが、それでも打算は効く様で、脱出するための手段をあれこれ考えていた。その刹那。
ズガァン! ゴガァッ!
周囲に響き渡る爆発音。弾かれたようにカインは周囲を見回す。サラもカインに駆け寄ってくる。
周囲に気を取られている隙に、黒尽くめはカインの束縛から逃れ、爆発のあった方角へと駆け出す。
カインとサラも駆け出した黒尽くめの後を追う。そのまま暫し道を走っていた二人は、驚愕を浮かべる。
二人が見たものは、上空を群れ成して羽ばたいているワイバーンの群れだった。
その数はどんなに好意的に見積もっても、10匹以上はいる。唖然としている二人に、上空から声が響く。
「次に会う時は、必ず貴様らを消す。覚えておけ」
先程までカインが拘束していた黒尽くめの声だった。
目を凝らすと、今まで二人が戦っていた黒尽くめたちがワイバーンに跨っていた。
黒尽くめたちが手なづけていたのであろう。
「行け」
黒尽くめの一人がワイバーンに命じる。2匹を残し、残りのワイバーンは去って行った。
残った2匹のワイバーンは、カイン達を獲物と認め、空を滑って二人に襲い来る!
ギリギリまで引き付けて、その巨体を大きく交わすカインとサラ。
それとと同時に気法を放つための錬気と詠唱、そして構成を同時に行う。
ワイバーンがUターンし、再び二人に襲い掛かろうとした時。
「爆水天昇柱!!」
サラの発動させた気法によって、水柱が爆発的な勢いで天に向かって吹き上がる。
それに巻き込まれたワイバーンは姿勢制御できずに天に打ち上げられた。
「カイン、今よ!」
「判ってるッ! 旋風舞斬刃!」
カインの発動した気法によって、風刃が嵐と化して2匹のワイバーンに荒れ狂う。
風刃の嵐に巻き込まれた2匹のワイバーンはズタズタに斬り刻まれた。
特にその翼は跡形も無くなるほど斬り裂かれており、ちょっとやそっとでは再生できない。
二人は間髪いれずに再び気法を発動させる。
「轟覇円水陣!」
サラは気法で渦潮を発生させる。
ワイバーンを呑み込んだ渦潮は引っ切り無しにワイバーンの肉体を翻弄する。
渦潮の中で揉みくちゃにされたワイバーンはそのまま力尽き、ピクリとも動かなくなる。
「風震空砕!」
カインは風の気法でワイバーンの周囲の空気を振動させる。
空気振動の衝撃により、ワイバーンの体内が激しく揺さぶられる。
ワイバーンはその振動によって内臓にまで達するダメージを受け、口から多量の体液を滴らせて崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
「ふぅ…ようやく終わったわね…」
呼吸を整えて、サラはカインに話しかける。カインも小さく頷きながら呟く。
「しかしあいつら…自分達の秘密を守る為には、本当に手段を選ばないな…」
「カイン…これからどうするの?」
「今夜にでも、4人であの教団施設に忍び込もう。ここまでやられた以上、もう俺達も容赦はしない」
サラに訪ねられたカインは、冷たく言い放つ。それだけ、カインが怒りを覚えている証である。
「最終決戦だ…これ以上逃げられると思うなよ…!」