Chapter.5

「…で、コウ、ルキア。その黒づくめ達は結局…?」
「ああ、逃げられちまった。目の前でいきなり気法炸裂させて、な」
「まったく〜、すばしっこい連中だったわよ〜。逃げるくらいなら初めから襲ってこない
でちょうだい、ってモンよ」
「とりあえず、二人に怪我が無くてよかった」
「コウ、大丈夫? いきなり目の前で爆炎球フレイム・ボールを炸裂されたんでしょ?」
「ああ、メチャクチャ焦ったぜ。あとちょい結界張るのが遅かったらヤケドじゃすまねーよ」
「とにかく、二人が無事でよかったよ」
「ご心配お掛けしやした」

翌朝。結局コウ達は神霊具プラーナ・ツールの店に寄ったものの、営業時間に間に合わずにそのまま帰ってきたのだ。
全てはあの襲撃の所為である。
昨夜遭遇した襲撃の事はカインとサラに昨夜のうちに相談済みである。
そして日を跨いだ今日、これからの調査方針を相談するために集まっていた。

「…それで、カイン。今日これからどう動くの?」
「ああ、その事なんだけど、俺の考えとしては二手に別れて行動…が一番いいと思う」
「具体的にはどうするの〜?」
「街での情報収集と、後は向こうの懐に少し潜り込んで見ようか、って」
「大胆だな〜。カインがンな手段に踏み切るなんて思わんかったぜ」
「潜り込む、って言ってもただ単に参拝客を装って入ってみるだけだよ。そんな無茶な真似はしないさ。
まあ、向こうもこちらが参拝客として来ている以上、あまり無茶な真似は出来ない、って踏んでの事なんだけど。
…実は本音を言うと、街での情報収集は外れになる可能性が高いと踏んでるんだ。
だから少しでも確実な情報を得るための手段だよ。
それに、街に居るメンバーには囮の役割も果たして貰いたい、って言うもう一つの役割も担ってる」
「な〜るほどネ〜。そいじゃ、早速メンバー分けするんでしょ?]
「実は、カインと相談したんだけど、もうそれぞれのメンバーは決まってるの」
「話が早えェじゃね〜か。んで、どうすんだ?」
「コウとルキアが街での情報収集、私とカインで敵情視察よ」
「あぁ〜!? そりゃ無ェよ〜!!」
カインの出した案に不満げな声を出すコウ。カインは落ち着いた素振りで口を開き。
「コウとルキアが昨日の夜襲われた連中から、向こうに顔が割れている可能性があるからだよ。
二人、特にコウには申し訳ないんだけど、今回はガマンして欲しいんだ」
「ま、そ〜いう理由があるんならしゃ〜ねぇか。あまり暴れんじゃね〜ぞ、二人とも」
「大丈夫よ〜、カインとサラはコウとは違うんだから」
カインの説明に納得したついでに、自分の事を棚に上げたボケ発言をするコウ。
もちろん即座にルキアに突っ込まれる。

「それじゃ行くよ、サラ。二人も街での聞き込み、よろしく頼むね」
「コウたちも気をつけてね。一応、昨日襲われた後だから」
「大丈夫よ〜。こっちは任せて行って来てネ〜」
「オレ等の事は気にしねーで、行って来てくれいっ」
レイモンド邸で朝食を摂った後、手筈通り二手に分かれて行動を開始した。

「…ねえカイン、私たちにも向こうの息が掛った人たちって、こっちに来ると思う?」
レイモンドから貰った地図を頼りに、噂の教団施設を目指すカインとサラ。
その道すがらサラはカインに問い掛けた。その問い掛けにカインは難しい面持ちで。
「…こればっかりは、俺にもなんとも予測できない。
向こうが俺達の想像以上に用意周到だとしたら充分にありうる事態なんだけど。
まあ…は向こうの出方を見るしかない、っていうのが本音だね」
「後手後手、かぁ…何も無ければ良いんだけど」
「今は…それを祈るしかないね」
そんな会話を交わしながら行く事暫し。
木々の切れ目から、陶磁を思わせる乳白色の色の屋根を持った建物が見えてきた。
高さは3階建て程度だが、面積的には相当に広い事が遠くからでもはっきりと判る。
「あの建物…だね?」
「うん、レイモンドさんから貰った地図通りなら、あれがそうね…」
「よっし、それじゃあ…行くよ。心の準備はいい?」
「もちろん。行きましょう、カイン!」

ぎいぃぃぃ…っ

木製の扉を開き、カインとサラは玄関をくぐる。玄関の先は大広間になっていたが、辺りには人の気配が無い。
少し思案した後、カインは開口一番。
「すみません、どなたかいらっしゃいませんか? 旅の者なんですが…」
カインの声が大広間に響く。すると、左手奥のドアから浅黄色のローブを纏った初老の男性が姿を現す。
「何用かな…?」
「突然の来訪をお詫びします。この辺りに新しく起こした宗教を布教している教団があると
聴いたんですが…こちらで宜しいですか?」
「如何にも、私がこのディアビス教を発足させたローハン・ティアギスだが、そなた等は?」
「私達、旅の途中でその宗教にを知って興味を持って、どんな物なのかを観てみたくなったんです」
「おお、見学の方でしたか。ようこそおいで下さった。失礼な物言いをお許し下され」
「こちらこそ、急に押しかけてしまって申し訳ありません」
「では、早速この施設の中をご案内しますが…よろしいかな?」
ローハンの誘いに、カイン達は二つ返事で頷いていた。

「それで、この教団ってどんな布教活動を行ってるんですか?」
ローハンが施設の案内を始めるや否や、サラはローハンに問いかけた。彼は歩きながら説明を行う。
「簡単に言うと…獣神信仰ですな。俗世に住んでいる動物たちは皆、獣神様の遣い、と認識しておるのです。
そして、その動物達を慈しむ事で、獣神様への信仰の証、とするのです。
…と大層な事を言ってますが、実際には迷い犬や迷い猫の保護などが主な活動内容になっております。
殆ど実態はボランティア集団に近いですな」
苦笑交じりに説明するローハン。しかしカインは。
「とんでもない。そういった地道な作業を繰り返す事こそが真の信仰なんじゃないですか?
少なくとも俺はそう思いますよ」
本音三割、建前七割。

暫く案内されるうちに、『立入禁止』と書かれたドアが目立つようになって来た。
道すがらサラがローハンに訊ねてみたが、倉庫だの活動資金の金庫だのと言われたので、とりあえずそれ以上は深く突っ込まない事にした。
そして再び施設案内を受ける事暫し、3人は元の場所へと戻って来た。

「これで一通りの施設案内は終わりましたが…他には何かございますかな?」
訊ねてくるローハンにカインは首を横に振りつつ。
「いえ、ありがとうございました」
施設を立ち去ろうとするカイン達の背中に、さらにローハンの声がかかる。
「是非とも、このディアビス教をよろしくお願いします」
カイン達は微笑んで会釈を返すに留めた。

ヴェントタウンに戻る道すがら。サラはカインに問い掛ける。
「このまま何も無い、って事…あると思う?」
カインは難しい顔をして。
「どうだろう…俺としては何も無い事を祈りたいんだけど」
当たり前の事を口にしつつ、二人は周囲に気を配り歩を進める。
刹那。

カサ…ッ。ガサガサガサガサ!

不意に周囲の茂みから葉擦れの音が漏れ出した。二人は弾かれたように身構える。
背中併せに立ち、お互いの死角を減らすカインとサラ。

ガザガザッ!!

刹那、茂みからサラに向かって何かが飛び出した!!
すんでのところでサラはそれを回避する。茂みの中から飛び出してきたのは、4人の黒尽くめの集団だった。
「お前達か…? 昨日の夜、コウとルキアに襲い掛かったのは」
返答の変わりに、黒尽くめたちは腰の後ろから大振りのダガーを抜き放つ。
「やっぱりそうだったのね…それで、今度は私達の口を封じるつもりなのね?」
再び黒尽くめたちは何も応えず、代わりに隠し持っていたスローイング・ダガーを一斉にカイン達に向けて投げ放つ!
サラは手元で槍を旋回させて、カインはブーメランを投げて飛び交うスローイング・ダガーを叩き落とす。
「…カイン、やるしかないみたいね」
「やれやれ…仕方ない、サラ、行くぞッ!!」
「任せてッ!!」
吼えて、カインとサラは黒尽くめの集団と対峙した。

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