聖なる祭り夜に
天馬の月の30日。この日は双造大陸グラストリアにおける、神霊への感謝祭の日である。
この日、グラストリアの民達は皆こぞって街の屋根屋根を飾り立て、夜には街ごとに宴を開く。
大人たちは子供たちに玩具をプレゼントし、そして恋人達は愛を伝え合う。
その恋人達が、ここ双造大陸グラストリア中央、セントール地方のアストアタウンにも一組いた。
うなじで一括りにした緑色の長髪に、切れ長の瞳は深紅。その長髪と揃いの色のマントに身を包む青年。
彼の名は、カイン・ヴィクトリィ。
明るい水色の長髪をポニーテールに束ね、愛らしく円らなライトブラウンの瞳。そしてその髪の同色のマ
ントをその肩に羽織っている女性。
彼女の名は、サラ・ブイ。
二人とも、マントの下に厚手のニットジャケットを羽織っている。感謝祭の時期は真冬のため、冷えが厳
しい。それは二人の故郷、そして今居る街でもあるアストアも例外ではない。
普段羽織っているマントだけでは寒さを凌ぎきれないため、こうしてマントの下に防寒具を羽織っている。
マントの上に羽織らないのは、二人の纏っているマントが身分を示すための物だからである。
サラはカインに身を寄せ、手をつないで街並みを歩く。ただただ、無言で。
互いに言葉は交わしはしないものの、二人は優しく穏やかな微笑を絶やさない。お互いに視線を交える度、
二人は互いに微笑を向け合う。
ふと、サラが足を止める。カインもそれに吊られて足を止める。
「どうしたの、サラ?」
「何か…今、とっても幸せなの」
サラに声をかけるカイン。その問い掛けにカインに悪戯っぽい微笑を浮かべながら、サラは答える。
「幸せ…? 何処が幸せなの?」
「今、カインと一緒に居られる事が、よ。感謝祭の夜にカインと二人きりですごす事が今までの夢だったの」
「…なんか、そういう風に言って貰えると嬉しいな…ちょっと照れるけどね」
そのようなとめどない会話をしながら、二人はまた街並みをゆっくりと歩く。途中、露店で暖かいココアと
フィッシュ・アンド・チップスを買い、食べながら歩く。
「はい、カイン。あ〜ん」
サラはカインの口元に白身魚のフライを運ぶ。カインは苦笑しつつも、
「あ〜ん」
サラが口元に運んできたフライを口に入れる。白胡椒の柔らかな辛味とハーブ岩塩の爽やかな塩気が、カイ
ンの口腔に広がる。
「ん、美味い」
「そう?」
「ああ、サラが食べさせてくれたからかな?」
「…もう、カインったら…」
カインの何気なく言った一言に、サラは顔を赤らめながらも喜ぶ。
「サラ、はい。あ〜ん」
今度はカインがサラの口元にポテトフライを運ぶ。サラは顔を赤らめながら、
「ふふっ、あ〜ん」
カインが口元に運んできたポテトフライをほおばる。ジャガイモの食感が口の中に広がっていく。
「熱っ…でも美味しいな。カインに食べさせてもらったからからかな?」
「ふふ、何か照れるな…」
サラの一言に、カインは顔を赤らめつつやや目線を逸らす。
「冷えるわね、今日は…」
ふと、サラが呟く。ニットのジャケットを着てても、この時期の冷え込みは尚厳しい。吐息もすぐに夜気に
冷やされ、白い靄となって夜空を舞う。
そんなサラを見て、カインはサラの背中越しにサラを抱きしめる。
「どう、これで少しは寒さが和らいだ?」
「え!? う、うんっ。とっても暖かいよ。ありがとっ、カイン」
少々どぎまぎしながら、サラは答えた。その刹那。
「雪だ…」
カインが呟く。
しんしんと、雪が降ってきた。感謝祭の夜に雪が降る事は、神霊達からの贈り物とされている。今年は、神
霊達からの贈り物がグラストリアの民に届けられた、と言うわけだ。
「綺麗…」
サラは目を輝かせている。その幻想的な光景に、完全に心を奪われているようだ。
「今年は、カインと一緒に過ごせて、本当に良かったな…」
サラが、カインに振り返る。カインはサラに微笑を投げかけている。
「ねえカイン、今ここでプレゼント交換、しよっか?」
「え…でも俺、プレゼントになりそうな物なんて今持ってないよ?」
やや戸惑い気味のカインに、サラは悪戯っぽい微笑を浮かべる。そして、おもむろにカインに抱きついて。
「これが…私からのプレゼントよ♪」
そう言いつつ、サラはそのままカインの頬にそっとキスをした。
「ふふっ、カインのほっぺ、暖かくて柔らかいな」
ちょっと照れ笑いしながら、カインにキスしたままの体勢で話しかけるサラ。そして一旦体を離し、カイ
ンの目を見つめる。
「受け取って、もらえた?」
カインは顔を赤らめながらも、ゆっくりと頷く。カインはしっかりとサラを見つめて。
「それじゃあ…次は俺からのプレゼントだね…」
言うや否や、今度はカインがサラをしっかりと抱きしめる。そして、カインはサラに、口付を交わした。
「ん…」
サラの声が洩れる。そして、二人は目を閉じる。そのまま、二人はゆっくりと、互いの唇を絡めあう。
…それから。
一体、どれほどの時が経ったのだろう。
一瞬が永遠(とわ)に。
永久(とこしえ)が刹那に。
この瞬間だけ、カインとサラにとって、時は時で無くなっていた。ただ、二人を包み込む流れと化してい
た。
どちらからと言うわけでもなく、二人はふと唇を離し、見つめあう。そして暫く見つめあった後、サラは
カインに再び寄り添いながら。
「ねえカイン…もう一回…プレゼント、貰っても…いい?」
顔を赤らめ、上目遣いでカインの事を見ながら小声で囁く。
カインもかなり顔を紅潮させながらも。
「ああ…いいよ」
「ありがとう…」
言葉を交わし、視線を交わせ、そして、再び…。
二人は、細雪の舞う中で。
ゆっくりと。しかししっかりと。
口付けを、交わした。
F I N
†あとがき†
ホムペ開設以来、初のフリー小説です。ダメすぎです、俺。(核爆)
それはさておき。
今回、コレを書いたのは、純粋にこの小説の主人公であるカイン君とサラちゃんの恋愛模様にスポットを
当ててみたかったからです。
で、書いてみて思った事。
二人とも、奥手なんか積極的なんかハッキリしろよッ!!(オイ)
カイン君は最初は奥手な反応を示すけど、段々と積極的になっていく。
サラちゃんは最初は結構積極的なんだけど、蓋を開けてみると実は奥ゆかしかったり。
結構対照的になったけど、これはこれで面白いなぁ、と。(核爆)
最後に、俺自身に対して一言…
よくこんなこっ恥ずかしいもん書けたな、俺…。(笑)