第4章 運命との「邂逅」
Chapter.1
「さて…とりあえず東に来たのはいいけど、どうしようか」
ふと、カインが呟く。
「う〜ん…確かにあの後勢い任せで出てきちゃったもんね…」
それに同意するかのように、サラもボヤく。
「ボクに聞くなよ、そんな事…なんであの時ボクもあの流れに乗ってたんだろう…」
遠い眼をしてヒユウも呟く。
「まあ…こうして旅に出た以上、何か見つけられるように頑張りましょう?」
テティスがボヤきまくる3人を励ます。
「そうだよ、探してみようよ! きっと何かあるって!!」
セイもテティスを後押しする。
「判ってるって、テティス、セイ。このまま手を拱いていたら、何も変わらないしね」
カインも二人の意見を受けて、気を持ち直す。
「カイン、もう暫く行くとレイヤという街がある。今日はそこに宿を取ろう」
地図を見つつ先頭を歩いていたヒユウが提案をしてきた。カインもそれに同意して、ヒユウに道案内を頼む。
皆でシオンの持つ天聖剣クラウ・ソラスを封印しようと決めた後。
やはり全員でまとまって行動するよりも幾つかのパーティに分かれて探索を行った方が効率がいいと判断し、パーティを5人に分けた。
一つのパーティはリフをリーダーに、コウ、ルキア、ミント、シオン。
もう一つのパーティはこちらのカインをリーダーとする、サラ、ヒユウ、テティス、セイのチームである。
程なくして、カイン達はレイヤの街へと辿り着いた。
カイン達が街の門を潜ろうとしたその刹那。
ヒュルルルルル!!
いきなり、カイン達の元に数条の投げ縄が飛んできた。
慌てず騒がず、セイはそれらの投げ縄を全て半ば程で斬り落とす。
そしてセイは縄の飛んできた方へと向き直つつ、縄を投じた主に声をかける。
「…一体、どういうつもり? 僕達はただ単に旅人としてこの街に足を踏み入れただけなんだけど」
すると、セイが声をかけた方向から10名程度の人間が現れた。
「お前らだな! この街に災厄を齎す奴らってのは!!」
「お前らに来られたせいでこの街が災厄に見舞われたらどうするんだ!」
「出て行け!!」
「帰れ!!」
彼らは開口一番にカインたちを罵る単語を吐いていく。
時々サラやテティスが何とか彼らの気勢を緩めようと声をかけているのだが、取り付く島もない様子である。
「チッ…」
ヒユウが苛立ちながら錬気を行い、気法による牽制を行おうとしていた。それを感じ取った刹那、カインはヒユウに待ったをかける。
「カイン…! お前はこの状況でなんとも思わないのか!?
ボク達は何もやっていないって言うのに、いきなり犯罪者扱いだ!!」
街の人間達の対応にいきり立つヒユウ。ヒユウの言う事は尤もである。
自分達が足を踏み入れたことの無い土地に来て、いきなり悪者扱いされたのではさすがに彼でなくても気分は悪い。
そんな彼を必死に抑えつつ、カインもサラ達の助勢に入る。
「待ってくれ。とりあえずこちらは何も抵抗はしない。その証拠に、こうして武器も外す」
そこまで言うや否や、カインはベルトに吊っていたブーメランをホルスターごと外して彼らの足元に放り投げる。
他のメンバーもそれに倣い、手持ちの武器を外して彼らに預ける。ヒユウも渋々だが、カインに従う。
「いきなり俺達の事を信用しろとは言わない。けど、何で俺達がこういう風に疑われるのか。
せめてそれだけは説明してくれてもいいんじゃないのか?
もし武装を解除するだけじゃ足りないと言うんであれば、俺達の手を後ろ手で縛ってもらっても構わない」
「おい、カイン! 何を考えてるんだ!!」
カインの主張を聞いて、さすがにヒユウもカインに抗議の声を飛ばす。
しかし、カインの主張は街の者達にも大きな動揺を与えていた。まさかカイン達がこうまでして無抵抗を主張してくるのは意外だったのであろう。
彼らの中でもざわめきが生まれている。
「お前達、そこまでにしておきな。彼らは違う」
カイン達と街の人間達がやりとりをしている後ろから、一人の初老の女性が現れた。
彼女はカイン達に視線を向けると、深々と頭を下げた。
「私はこのレイヤの街の長を勤めているマオ・グレームス。
旅の方々、済まないね。街の者達が迷惑や不快感を与えてしまったようで…この街の長として、謝罪するよ」
グレームスの謝罪を真摯な謝罪を受け、カイン達もこれ以上気にしない事にした。
「…それで、あの人たちが言っていた事の理由を、お教えしていただけないでしょうか?」
あの後。カイン達は改めての謝罪と事情説明のために、グレームスの家に通されていた。
ちなみに当たり前の事だが、外したカイン達の武装はきちんと返還された。
「さて…何処から話せばいいものやら…見たところ、あなた達は神霊士かい?」
「そこの銀のマントをつけたセイは剣士ですが…残りの4人はそうです」
「ふうむ…そうか…それならば…直に見てもらったほうが速いのかも知れないね」
そこまで言うと、彼女は繁々とカイン達を見渡して。
「あなた達…一つ私から頼まれごとをする気はないかい?」
あまりといえばあまりに唐突なグレームスからの提案に、カイン達は目を点にするしかなかった。
「…というのも。この街の地下に地下墓地があるんだけどね。
その地下墓地に3年位前にこの村の最も力の強い祈祷師を埋葬したんだけど…。
この半年間から、その埋葬した祈祷師の声が聞こえる、って言う現象が起き始めているんだよ。
しかも、厄介な事にその声は予言になっているらしくてね…声が聞こえ始めていた当初は街のみんなも無視をしていたんだけどね。
三、四度ほど無視していた頃から、徐々にその声のように悪い事がおき始めていて、最終的には予言にあったように死人まで出てくる始末…。
今ではその予言に従うしかない、ってのが私達の現状なんだ」
「では、俺達を拘束…というか追い出そうとしたのもその声に従って…という事ですか?」
カインの問い掛けに、グレームスは無言で首肯する。
「いや、さらに言うとあなた達だけじゃない。この街を訪れようとする商人とかまで追い返させたりするんだ。
お陰でこの街はどんどん寂れていく一方になってしまう…頼むよ、この街を何とか救って欲しい…!」
最後の方はグレームスの懇願だった。とりあえず考える時間が欲しいとだけグレームスに言うと、カイン達は彼女の家を後にした。
その夜。
街にある一軒の宿屋に宿を取り、日中にグレームスから聞かされた話について色々と話し合った。
結局、事情をもう少し見ないと判らない、というヒユウの慎重論が通ったところで床に着いた。
そして。
「ん…」
セイは何となく寝苦しくなり、寝返りを打った。
刹那。
─助けて…
「…!?」
突如聞こえた声に、セイは慌てて飛び起きた。
見るとセイだけではない。カインとヒユウも起きていた。
「兄さん、ヒユウさん、今の声って…!?」
「…セイにも聞こえていたのか…カインはどうだ?」
「ああ、俺にも聞こえた…」
─助けて…この街を…助けて…
再び、先程の声が聞こえた。カインは気になって、女性陣の部屋を訪問してみた。やはり、彼女達にも今の声が聞こえたらしい。
それを確認して自分の部屋に戻ろうとした所。
─失せろ…邪魔をするな…
先程とは違う声が、突如カインの頭に響いてきた。まるで、今さっき聞こえた声の邪魔をするかのように。
─助けて…お願い…助けて…
─黙れ…さっさと失せろ…我の邪魔をするな…
─お願い…力を…力を貸して…
─消え去れッ!!
最後のおぞましい声を最後に、響いていた声は聞こえなくなった。
カインは部屋に戻り、セイとヒユウに、女性陣にも今の声が聞こえていた事を伝えた。そして、新たに声が聞こえた事もまた伝えた。
カインの話を聞き終え、3人は床に着いた。布団を被りながら、カインはある考えを固めていた。