第3章 もう一つの「覚醒はじまり

Chapter.1

「はぁ…ヒマだなぁ…ユウもレンジャー団の仕事で暫く帰ってこないし。
兄さんがそろそろ戻るって言う連絡受けたけど…こっちもいつになるか判らないしな」

ここはグラストリア中央のセントール地方にあるアストアタウン。
カイン・ヴィクトリィ達8人の神霊選択者プラーナ・セレクターの故郷の地である。

シルバークロム製のチェストプレートとショルダーガード、ウエストガードを身に纏い、腰にはフィランギという片刃の長剣を帯剣している。
ただ、一般に出回っているものよりも彼のものは刀身がやや長く、そして若干細めに設えられている。
額には鎧類と同じ素材の鉄環クレスト。銀を基調としたマント。
首筋で切り揃えられた銀髪をうなじで束ねている。やや幼さの残る、切れ長のライトブルーの瞳。

いかにも剣士の装いをした彼の名は、セイ・ヴィクトリィ。
そう。あのカイン・ヴィクトリィの弟である。

カインが気法の道を選んだ事を受け、彼は剣の道を選んだ。
幼少の頃から剣術を我流で学び、12の頃にこのグラストリアで最も高名な剣匠アザミに師事。
5年後、元々病に臥せっていたアザミが亡くなる瞬間まで彼の元で剣を学び、免許皆伝を授かり今に至る。

その彼が暇を持て余しているのである。この町に1年ほど前に越してきた親友のユウも今はレンジャー団の仕事でアストアを離れている。
「仕方ないか…街の人達と一緒に街外れの森に狩りに行こうかな…」
などと呟いていた束の間。

「ま、魔物が出たぞ〜!」
「急いで市民を退避させろ〜!」
「防衛隊を出せ!!」

一気に街中がパニックに陥った。とりあえず、セイも近くに居た人を安全な所へ誘導する。
ひとしきり避難の誘導を終えた後、セイは魔物侵入の声が上がった方角へと駆け出していた。

「みんな、無事!?」
「セイか! すまない、助かった!!」
「ここは僕に任せて、避難した人たちの防衛をお願いします!」
「判った!!」
警備兵達と会話を交わし、セイは魔物撃退へと赴く。

いざ街に侵入した魔物たちを見回してみると、結構な数で街を荒らしていた。
キラーマンティスに鋼鉄ミミズアイアンワーム装甲サソリアムドスコーピオン
硬毒トカゲバジリスクに20匹以上の火蜥蜴蜻蛉サラマンドフライ、果てはマーダラーバードの群れまで居る。

「結構な数が居るな…けど!」
セイは帯剣しているフィランギを抜き放ち、魔物の群れと対峙した。

(しかし…空を飛ぶ種類の魔物が多いな…)
魔物の群れを見回して胸中で呟くセイ。しかし瞳に込める力は緩めず。いや寧ろ更に強めて。
「まあそこは…うまくやるか!!」
叫びながら魔物の群れへと切り込むセイ。

「ハァアアアアァッ!!」
横薙ぎにフィランギを一閃。キラーマンティスの片腕を斬り落とす。その勢いを殺さずにそのままキラーマンティスの脇を駆け抜ける。
続いてセイは装甲サソリアムドスコーピオンに駆け寄ってその尾を斬り飛ばし、すかさず方向転換して離脱する。
セイは足を止めずにそのまま硬毒トカゲバジリスクに駆け寄り、その角を斬り砕く。その刹那の後、硬毒トカゲバジリスクの脳天に剣を突き立てて止めを刺す。

「まず一匹! 次!!」
セイは次に鋼鉄ミミズアイアンワームへと駆け寄り、突きを繰り出す。
気を込めた突きは狙い過たず鋼鉄ミミズアイアンワームの眼を貫く。苦痛にのたうつ鋼鉄ミミズアイアンワーム
鋼鉄ミミズアイアンワームが口を空けた刹那の隙を狙い、セイは剣を鋼鉄ミミズアイアンワームの口の中へと突き入れる。
幾ら皮膚が硬くても、体内まではそうはいかない。セイの剣は口腔から後頭部を突き破る。セイはそのまま剣を振りぬいて頭頂部を斬り飛ばす。
頭頂部を失って、鋼鉄ミミズアイアンワームはそのまま倒れ伏し、身動ぎ一つしなくなった。

「セヤアアアァッ!!」
次は先程片腕を斬り飛ばしたキラーマンティスに向けて駆け寄る。
それを察知したキラーマンティスが残ったもう片方の腕を振り上げ、その腕についている鎌をセイに向けて振り下ろす。
セイはその一撃を剣で受け止め、いなす。その勢いを利用し、セイはもう片方の腕を斬り飛ばす。そしてそのまま首を斬り飛ばして止めを刺す。

キュシャアアアアアアア!!

キラーマンティスを倒した直後、セイの後ろから装甲サソリアムドスコーピオンが残った両手の鋏を鳴らしながらセイに向かってくる。
立て続けに突き出される鋏をセイは丁寧に弾き、受け流し、捌く。
(今だ!)
タイミングを見計らい、セイは反撃に転じる。
装甲サソリアムドスコーピオンの鋏の先端にある鋭い爪を斬り飛ばし、次いで鋏自体を斬り落とす。
「テエエェェイィ!!」
セイの剣が幾度も幾度も閃く。その軌跡は正しく光の帯の如く、稲妻の如く。
外骨格で形成された装甲をものともせず、瞬く間に装甲サソリアムドスコーピオンを細切れへと変じてゆく。

(これで地面に居る奴はあらかた倒した…次は!!)
「お前達だッ!!」
胸中で、そして声で叫びつつ。セイは高々と跳躍し、空を飛ぶ魔物たちの群れへと向かう。
一体の火蜥蜴蜻蛉サラマンドフライの背に着地し、そのまま容赦なく剣を一閃させる。
羽を斬り削がれ、失速する火蜥蜴蜻蛉サラマンドフライの背に剣を突き刺して止めを刺す。と同時にすぐさま次の火蜥蜴蜻蛉サラマンドフライの背に。
着地ざまに背を斬り払って致命傷を与える。ここでセイは一旦地上へと降りる。そして先程斬り砕いた硬毒トカゲバジリスクの角を拾い、再び跳躍。
空中でマーダラーバードの一羽にその角を投げつける。
投げ放たれたその角はものの見事にマーダラーバードの眉間に突き刺さり、額に角を生やしたマーダラーバードは絶命し、地に落ちる。
セイはそのまま火蜥蜴蜻蛉サラマンドフライの群れに突っ込み、すれ違いざまに3体の火蜥蜴蜻蛉サラマンドフライを屠る。
再び着地し、同様に斬り飛ばしたキラーマンティスの2本の鎌と装甲サソリアムドスコーピオンの尾、爪を拾い上げて再三度の跳躍。
マーダラーバードの群れに向けてキラーマンティスの鎌を1本投擲する。
投げられた鎌はその旋回にマーダラーバードを次々と巻き込んで血飛沫を空に散らせる。
そのまま中空でもう一度火蜥蜴蜻蛉サラマンドフライの群れにもう一方のキラーマンティスの鎌と、装甲サソリアムドスコーピオンの爪とを投げつける。
火蜥蜴蜻蛉サラマンドフライの群れもマーダラーバードの群れと同様の末路を辿る。同時に投げつけた爪も狙い過たず火蜥蜴蜻蛉サラマンドフライの心臓に突き刺さる。
さすがに仲間を多数殺されて怒っているのか、残ったマーダラーバードがセイに向けて突撃してくる。
セイはフィランギと、そして先程拾った装甲サソリアムドスコーピオンの尾を構える。
装甲サソリアムドスコーピオンの尾を鞭のように振り回してマーダラーバードを打ち据える。その一方で剣も閃き、マーダラーバードを斬り伏せて行く。

セイが再度大地に降り立ったときには、数匹の火蜥蜴蜻蛉サラマンドフライを残すのみだった。

しかし。残された数匹の火蜥蜴蜻蛉サラマンドフライは、セイを無視して街へと侵入する。
(しまった─!!)
さすがにセイも動揺を隠せず、急いで火蜥蜴蜻蛉サラマンドフライを追いかける。

その刹那。

ゴウッッ!!

剛風と共に、何処からとも無く飛んできた一本の槌棍クォータースタッフ火蜥蜴蜻蛉サラマンドフライの腹部を貫いた。
その飛んできた方角を見ると…一人の神官風の服装をした男性が立っていた。
セイと同じ銀の長髪。瞳は髪と対照的な、眩い橙色。全身をすっぽりと覆う白地に銀糸の刺繍が成されたローブ。
マントは反対に銀の地に白い絹糸での縫い取り。
首には首環チョーカーを付けている。
彼はセイに気付くと、セイに向き直り。
「加勢します」

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