Chapter.8

「ち…ッ! これじゃキリが無い!」
「ウジャウジャ湧いてきやがって…いい加減にさっさと零に還れ!」
4人は宙に浮かぶ兜に追われながら、森の中を駆け抜けて行く。
あの後。飛霊騎士フライングナイトの群れを退けたはいいものの、飛霊騎士フライングナイトを動かしていた霊が消滅する間際に新たな霊魂を呼び出していた。
そしてその霊が森に落ちていた小さな岩に憑依、無数の飛霊兜ナイトヘッドとなって襲い掛かってきたのである。
飛霊兜ナイトヘッドとは、その名の通り、低級霊が土くれや小さな岩に憑依し、兜の形を取ったモンスターである。

気法で、通常攻撃で少しずつ数を減らしてはいるのだがいかんせんその数が数である。
撤退を余儀なくさせられ、逃げながらの戦いとなってしまった。
襲い来る飛霊兜ナイトヘッドを避け、気法で、あるいは武器で、体術で打ち砕く。ひたすらその作業を繰り返す。
飛霊兜ナイトヘッドは憑依する霊が低級霊ゆえに個々の力は低いものの、圧倒的な物量で押し寄せてくる。
故に飛霊兜ナイトヘッドを5体見たら、少なくともその7〜8倍の数が群れていると考えろ、と言う教訓が為されている程である。

「もうっ! こういう時ってつくづく思うよね。
仲間に退魔士エクソシスト浄霊士インクイジターが居ればいいな、って!」
「もしくは…レクイエムを謡える吟遊詩人バードの方ですわね」
「こんな時にそんな事言ってる場合か!」
微妙にズレた会話─とはいっても、状況的には愚痴として取れるのだが─をしているミントとテティス。
そんな二人に思わず叱責を飛ばすヒユウ。

半刻後。
ようやっと全ての飛霊兜ナイトヘッドを消滅させた4人。
さすがに飛霊騎士フライングナイトからの連戦で疲れたらしく、思わず地面にへたり込んでしまう。
「ふう…漸く片付いたみたいだね…」
「全くだ…のっけからこんなに苦労するとはな。予想外だ」
「もう…あたしお腹ペコペコ…テティ、お弁当ない?」
「そうですわね…ちょっと早いですけどブランチには丁度いいお時間ですわね。お食事に致しましょう、皆さん?」
「そうしようか。最初からこんな調子じゃ、これからどんな事があるか判らないし。
食事をする余裕がある時は、しっかりと食べておこうよ」
リフとテティスの提案に、ヒユウも頷いた。

たまたま4人がへたり込んだ場所のそばには、小川が流れていた。
ヒユウはその小川から水を汲んで火にかけて、飲み水にする。
その間も自分の荷物の中から携帯の釣竿を取り出して、小川で釣りを行う。
テティスは作っておいたパンを火に近づけて温めている。その他にも小さな鍋に卵を割り入れて調理する。
リフとミントはリフの知識を元にハーブや木の実、食べられる植物を採集している。

20分ほどして。ヒユウは小ぶりのウグイを20匹ほどと、大きなニジマスを8匹釣って来た。
それに申し合わせるような形でリフとミントが手持ちの袋に一杯のハーブや食用植物、木の実を取ってきた。
テティスはウグイをハーブや食用植物と共に水を張った鍋に入れ、塩と緑胡椒を加えて煮込む。
ニジマスは塩焼きにした。
先程作っていたスクランブルエッグにリフの拾ってきたクルミを砕いて混ぜ、さらに炒る。
調理を済ませた頃にはパンも程よく温まり、食事の準備が整う。

『いただきます』
声を併せて食事の前の挨拶。思い思いの料理に手を伸ばす。
「美味し〜い! やっぱりテティの料理は最高だね!!」
「本当だね。体の中から疲れが抜けてくような気がするよ」
「旨い。テティスの料理はいくら食べても飽きないな」
「嬉しいですわ。私も頑張って作った甲斐がありますわ」
食事を取り、鋭気を養った4人。飲み水にするために沸かしておいた水を水筒に入れ、身支度を整える。
そして再び、森の中の探索へと足を進める。

その後はまずまず順調と言える足取りだった。
3度ほど狼や虎と言った野生の獣との遭遇もあったが、全てリフが雷の気法で驚かせて退散させている。
唯一の例外は鉄鉱ミミズアイアン・ワームとの遭遇。その名のとおり、鉄のように硬い皮膚を持つミミズである。
だが、この戦闘も先程の2連戦に比べたらものの問題ではなかった。
4人で中級程度の気法を一斉に浴びせ、一気に沈黙させた。

しかし、調査にも決定的な実りがなかなか出てこなかった。
リフが怪しいとした地点を重点的に調べたのだが、これは、という確信的な要素がなかなか出てこないのである。
そして全ての場所を調べつくしたのだが、結果は散々であった。

「…おかしい…何を見落としてるんだ…考えろ…考えろ…」
本来ならこういった場面では冷静さを失わないリフもさすがにやや狼狽しているようである。
思考を働かせてはいるのだが、いい考えが出てこない。…しかし。
考える考えない以前に、どうにも記憶に残っていない部分があったので、リフは思い切って皆に聞く事にした。
「…? そう言えば、最初に調べようとした所、何か出てきた記憶ある?」
「何言ってるの。調べるも何も、その地点に着いた瞬間に飛霊騎士フライングナイトに襲われちゃったから調べて無いわ」
自分の発した問い掛けに、ミントがある程度予想できた答を返してきた。
そして、リフは自身で考えていた推論に確信を持つことが出来た。
「やっぱり…多分、そこに何かあるに違いないよ」
「え? 何でなの?」
リフの結論に、当然の如く疑問を持つミント。リフは自身の考えを纏めながら皆に説明する。
「考えてみてくれ。僕たちがあの地点に到達したら、いきなり飛霊騎士フライングナイトの群に襲われただろ?
何であんなにタイミングよく僕たちを襲う事が出来たんだ? 仮に偶々だったとしても、偶然すぎるよ。
本来、アンデッドモンスターは形を得たらその形を維持しようとするだろ?
もちろん例外として、屍体術師リッチみたいに自分の姿を消したり変えたりできるのも居るには居る。
けど、それにしたってそう言った連中も基本的には元の姿を変えようとはしないはずだよ。
ましてやあの手のアンデッド・ナイト系のモンスターは一旦鎧としての形を取ったら、もう幽体離脱出来ないはずだ。
だとしたら、考えられることはただ一つ。あの近くに何かある」

「なるほどな。
誰かが何らかの手段でボク達の接近を知って、あのタイミングで飛霊騎士フライングナイトを呼び寄せた、と言う事か?」
リフの説明を聞き、ヒユウがより端的な言葉でリフに問を返す。リフはそれに首肯で応じる。
「なら…行ってみるしかない、ですわね?」
珍しく、テティスが不敵な発言をする。それに応じるように、ヒユウもさらに不敵な笑みを浮かべて。
「─なら、とことんまで調べ尽すか。その時に生まれた障害は、ボクが蹴散らす」
「決まりだね。行こう、みんな」
リフの提案に、3人は力強く頷いた。

2−7 2−9

物語の間へ戻る

グラストリアの入口へと戻る