Chapter.7
「ヒユウ…なんで集合時間をわざわざ朝早くにしますの?
ただでさえあなたは低血圧で朝が弱いのに…」
「それを…見越してだ…ふあぁぁ、あぁ…」
テティスが若干呆れ顔で尋ねたのに対し、ヒユウは生あくび混じりでその問いかけに答える。
「はふふぅ…おはよう、みんな…」
「寝呆すけさんがこっちにも居るよ〜」
これまた同じくリフがあくび混じりに集合場所へと現れる。ミントはそれを見守りながら元気に登場する。
「まあ…リフは今まで徹夜で頑張ってくれたのですから…。
そんなに言わないで差し上げましょう、ミント。さあ、後はヒユウですわ、体調は宜しくて?」
「ああ、大丈夫だ。心配をかける。ボクよりもリフの方を気遣ってやってくれ」
「リフ、大丈夫? 無理だけはしないでね?」
「うん、心配しないで。…ちょっと眠いけど何とかなるよ。
この程度の眠気だったら、徹夜明けで慣れてるし」
「でも、絶対無理はしちゃダメだよ? 絶対だよ!?」
「判ったよ、ミント。キツくなったらすぐに言うから。
それにしても僕は子供じゃないんだよ、ミント…」
苦笑しつつも、リフはミントに同意する。若干ミントの勢いに圧された感はあるものの。
「ミント、リフも困ってますわ。その辺にしておきましょう。けど、ヒユウも無茶しないで下さいな?
いくらあなたが歩きながら体調を整える事が出来ると言っても…」
「テティス、その辺でストップだ。ボクも一端の神霊士だ。自分の事は自分が一番良く判る。
だから…その、心配するな」
ミントを嗜めつつも、自らもヒユウに対して言い募ろうとするテティスを、ヒユウは手を差し出して留める。
やや顔を赤らめながら、だが。テティスもそんなヒユウを見て微笑みを返しつつ「判りましたわ」とだけ返す。
「行くぞ、皆。気を引き締めろ」
「ああ、行こう」
「頑張ろうねっ」
「参りましょう、皆さん」
そして、4日前に来たあの森。この森を、今回は調査するのだ。
しかも今回は、前回以上に危険な調査になる可能性がある。皆、慎重に足を進めていく。
前に来ていた時は空が晴れていたから、ある程度の視界は確保出来ていたのだが、今回は曇り空。
ただでさえ薄暗い森の中が、ますます薄暗くなっている。おまけに少々霧がかかっていて更に見渡しが悪い。
「ボクが先頭で行こう。気配を影に溶け込ませれば、すぐに何が動いたか判る」
ヒユウが先頭を買って出た。その後ろにはリフ、ミントと続き、殿はテティス。
テティスは照明代わりに小さな光球を生み出している。
これがあるだけでもだいぶ違うらしく、4人の歩調は少しだけ早くなった。
それから1刻後。リフが当たりをつけた調査区域の一つに近づいてきた。と思ったのも束の間。
りぃぃぃいぃぃぃぃぃ… おぉおおぉぉおおぉっぉぉぉ…
何かのうめき声のような声が聞こえてきた。弾かれたように4人は身構える。
その音を皮切りに、みるみるうちに瘴気が渦巻いてきた。
ゴォォォォォォォッ!!!
周囲から、全身鎧に身を包んだ騎士のようなモノ達が、宙を漂ってきた。その数16体。
「飛霊騎士か!!」
その敵を見たリフが叫んでいた。
飛霊騎士。その名のとおり、死んだ戦士や騎士の霊が石や土に宿り、全身鎧の姿を取って現れるモンスターである。
所謂動き鎧や死騎士)にならぶアンデッド・ナイト系のモンスターなのだが、その中でも
高位に位置するモンスターである。
最大の特徴は「飛霊」の名が付くように空を自由自在に飛び回って攻撃を仕掛けてくることである。
更にタチの悪いことに、飛霊騎士の中でも高位に属するものは飛霊魔騎士と呼ばれ瘴気による
遠隔攻撃を行える事である。
また、土や石に宿ったといっても、その硬度は並の鎧以上に強化されているので厄介な事この上ない。
「くそ…よりによってこんな厄介な連中が…」
「愚痴るのは後だ。とにかく今はこいつらを片付けるぞ」
毒づくリフにヒユウが叱咤を飛ばす。そうしながらリフもヒユウもきちんと武器を身構えている。
ミントやテティスも同様だ。飛霊騎士たちも生前に愛用していたであろう武器をそれぞれ構える。
そして無言で4人に迫り来る!
ヒユウたちはすかさず散開して、飛霊騎士の群れを分散させる。そして足を止めずにお互いに距離をとる。
森の中で見失わない程度に。
「陰鋏断!!」
ヒユウが自らの方に向かってきた飛霊騎士の1体に闇の気法で鋏の如き気刃を放つ。
しかし、その刃は飛霊騎士の手にした歩兵突撃鎗の一振りにより霧散される。
その1体が歩兵突撃鎗を構えてヒユウに向けて宙から突撃してくる。
「ちっ…!」
その一撃をすれすれで避け、カウンター気味にクロウを横薙ぎに振るう。
ザンッ!!
グギャア!!
元々威力のある一撃なのだが、相手の勢いが加わって更に威力が倍化されていた。
それに加え、運良く装甲の薄い部分を攻撃出来たらしく、今の一撃を受けた飛霊騎士は霧散していた。
空中で霧散した飛霊騎士は土くれへと還っていた。
「さあ、来い…その存在を、零に還したければ、な…!」
不適に言い放ち、ヒユウは未だ残る飛霊騎士の群れに切り込んでいく。
「射光弓!!」
テティスは光の気法で弓矢を生成し、狙いを定めた1体の飛霊騎士に射掛ける。
飛霊騎士がすんでの所で狙いを逸らしたため、直撃をする事は無かったが、それでも手にしていた長柄斧を
圧し砕く。
「爆輝衝!!」
その隙に光爆の気法を放つ。その爆砕に直に巻かれた1体が力を失って地に堕ちる。
「走波烈光!!」
その地に堕ちた1体に向けて、更に光波の気法で追撃する。放たれた光の波動が地を疾走し、飛霊騎士へと炸裂する。
そして十字剣を投げつけて、止めを刺す。
「ふう、光の気法は一撃必殺の威力を持つものが少ないから苦労しますわ…何はともあれ、これで1体ですわね」
ヂィイン! ギィン!
ミントは手にしたショートソードで直接攻撃を仕掛ける。しかし、やはり敵の装甲は厚く、易々とは傷つけられないようだ。
ただ、鎧の隙間から一撃翳める事が出来たため、若干なりともダメージは与えているはずである。
事実、その1体はその一撃でよろめいていた。ミントはその隙を逃さずに。
「凍冷糸!!」
氷の糸刃の気法を放つ。斬れ味鋭い糸刃とはいえ、流石に鎧のような装甲は切断できないらしく、飛霊騎士に絡みつき、その
動きを奪うに留まる。しかし、その一瞬で充分だった。すかさずミントは糸の絡みついた1体に駆け寄り、間合いを詰める。
「斬氷刃!!」
ザシュン!!
氷の気法で精製した氷の気刃で直接飛霊騎士を斬り付ける。殆ど零距離からの一撃を受けた飛霊騎士は、そのまま消滅する。
「よっし、うまくいった! この調子で行くよッ!!」
ミントは自らを鼓舞し、まだ残る敵へと油断無く身構えた。
ガキン! ツァリィン! ガィン! キィン!
リフは一箇所に留まり、襲い来る飛霊騎士たちの攻撃をひたすら手にした双剣で防御し続ける。
時には受け止め、捌き、いなし、逸らす。リフの望む刹那の刻を待ち続けて。
そして、その時は訪れた。自らの周囲をほぼ均等に取り囲せる。この陣形になった時を、リフは待っていたのだ。
(今だ!)
逸る気持ちを抑え、気法の発動準備を整える。そして。
「電槌閃!!」
雷の気法を発動させる。彼が発動させたのは、雷槌の気法。球状の雷槌を振り回して、自らを取り囲んだ飛霊騎士たちに纏めて
叩きつける。
1体、また1体へと立て続けに、引っ切り無しに雷槌を打ち据え続ける。
リフが狙ったのは複数同時攻撃。加えて衝撃を加える気法なので、ダメージの逃がしようが無い。
戦略家のリフらしい、実に理にかなった戦法だ。
そうこうしてる内に、次々と飛霊騎士たちは力尽き、土くれへと還ってゆく。
リフが気法を解除した時には、リフの方に向かっていた飛霊騎士は全滅していた。
「よし、早く皆を援護しないと…!!」
リフは残る皆の下へと駆け出した。