第2章 再会を待つ者達

Chapter.1

「今、カイン達からの手紙が届いた。ヴェントで少し暴れて来たらしい」
今しがた、黒い前髪で片目を隠した青年がカインが故郷へ向けて送った手紙を受け取った。
彼はもう一人居る、紫髪の神官風の髪形をした青年の前でそれを開封し、読んだ。
「そうか…でも、カイン達らしいな。何か見過ごせない事でもあったんだろう?」
「だといいがな…」
紫の神官風の髪形をした青年とやり取りを交わす。
「まあ、とにかく音沙汰が判っただけでも良しとしておこうよ、ヒユウ」
紫髪の青年が黒髪の青年─ヒユウをやんわりと取り成す。
「…そうだな、リフ」
リフと呼ばれた青年は、ヒユウの物言いに思わず微笑んでしまった。

黒い頭髪に黒い瞳。鋭い表情。そして、その前髪で片方の瞳を隠している独特の髪型。
彼の名はヒユウ・ビガロ・ビクトルース。

紫の神官風の髪型に、深い緑の瞳。柔和そうな表情。
彼の名は、リフ・ランザード。

「こんなとこにいたんだぁ、リフとヒユウ」
ふと、後ろから愛らしい声がかかる。二人が振り向くと、二人の見知った顔があった。
青い髪を三つ編みにした、愛らしい青紫の瞳の少女。
彼女の名は、ミント・ルティオス。

「さっきから、テティスと二人して探しちゃったよぉ」
「ごめんごめん、すぐ行くよ。ミント、テティのところに案内してよ」
「うん、オッケー」

言うが早いか、ミントは二人の前に立って案内を始め…ようとしたその矢先。

すて〜ん。

何も無いところで足を引っ掛け、ミントが派手に転んだ。
「痛った〜い…」
「ハハハハハハ…」
「フ…」
「も〜う、いつも言ってるけど笑わないでってば!!」
大きく笑うリフ。クスリと微笑だけを浮かべるヒユウ。そんな彼らに目くじらを立てるミント。
笑ってるリフに対し、ヒユウは先程リフと二人で会話していた時と表情がさほど変わっていない。
感情を巧く表現できない事、それはヒユウのコンプレックスなのである。
勿論、カイン達を含め、彼を良く知る者はその事についても悪くは言わない。
言葉には出さないが、ヒユウもその事は皆に対して感謝しているのである。

「あれ? 長様の家じゃないか」
ミントに案内されてやってきたのは、ここアストアタウンの長であるガージェス・ブイの家であった。
「ようやく来ましたわね〜、お待ちしたのですよ」
3人が中に入ると、おっとりとした女性の声が聞こえてきた。
絹の如き白い色の、緩やかなウェーブの掛かった長髪。バイオレットの、若干細めだが柔和な瞳。
前髪には、三日月を象った髪飾りをつけている。
彼女がテティス─テティス・ラインガルドである。

「さて、4人ともそろったようだな」
4人が話していると、奥から物静かだが威厳の篭った男性の声が聞こえてきた。
彼こそがガージェス・ブイ。サラ・ブイの父親にして、ここアストアタウンの町長である。

「長様、今回僕たちが集まったのって…」
「固い話ではない、落ち着いて聞きなさい。
実は、カイン達が帰ってくるまでの間、お主たち4人はどうしても手が余ってしまうと思ってな。
この間に、私の知り合いから頼まれた用件を皆にこなして欲しいのだ」
「その用件というのは?」
「モンスター退治だ。このアストアより半日ほど南下した所にチーニッカという村がある。
そこの村長からの依頼でな。何でもその村の外れにモンスターの群れが住み着いてしまったらしい。
結構凶暴な種類も居て、死人までは出ていないものの、怪我人が後を立たない状況だそうだ」
「そっかぁ…じゃあ、早く退治してあげないといけないよね」
「そうですね…それじゃあ、早速出発致しましょう、皆さん」
「そうしたいのは山々だけど…色々準備も必要でしょ? 何があるか判らないし」
「だったら…出発は明日のジヴァの刻にしないか?」
ヒユウの提案に、一同は頷く。
「決まりだな。じゃあ、明日のジヴァの刻0時にアストアの南出口に集合だ。遅れるなよ」

「しかし、ああ言ったものの…ボク達は何でも屋じゃないんだぞ…」
その夜。ヒユウは自室で出立の準備をしながらボヤいていた。
「ま、いいか…ボヤいた所でどうにかなる訳でもなし…さっさと終わらせよう」
気持ちを切り替えて旅支度を済ませ、ヒユウはさっさと床に付いてしまった。

翌朝。結局ヒユウだけが自分の言った集合時間に遅れた事だけを記録しておく。
彼は生まれながらの低血圧で、朝が苦手なのである。
「…それじゃ…出発しようか…」
何とも締まらない表情と声で、それでもヒユウは皆を取り仕切る。
「ヒユウ、全然締まりません事よ」
「判ってるよ、そんな事くらい…さ、行くぞ」
テティスの突っ込みに相槌を返し、ヒユウは改めて出発の音頭を取る。

「さっさと終わらせて、カイン達を待つ事にしようか!!」
ヒユウは珍しく強い口調で皆を鼓舞した。無論、3人もそのつもりだったのだろう。
しかし、この件が大事件に発展するとは、この時4人は思いもしなかった。

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