Chapter.4
「ごちそうさんでした〜!!」
レイモンド邸の食堂に、コウの声が響く。
魔物退治をした夜、カイン達はレイモンド邸へと招かれた。
レイモンドの言っていた、宿として自分の家を使うといいという誘いを受けるために。
そして今、夕食を終えた所である。
「いやぁ〜、美味かったです!」
「いえいえ、お気に召して頂いて嬉しい限りですわ」
コウの賞賛にレイモンド夫人も微笑む。
「でもコウ、食べすぎじゃない〜?」
「いいじゃねーかよ。だって実際すげー美味かったんだからよ」
「いえいえ、構いませんよ。私も作り甲斐がありましたよ」
コウとルキアが言いあっている所に、レイモンド夫人がやんわりとその場を宥める。
「凄く美味しかったですよ、本当に。後で、作り方を教えて貰ってもいいですか?」
「ええ、もちろん。それじゃあ早速、何か紙に書いてお渡ししますね」
「ありがとうございます!」
サラがレイモンド夫人に夕食のレシピを教わってる最中、おもむろに玄関へと向かうコウ。
そのコウにカインが声を掛ける。
「コウ、どこかへ行くのか?」
「おぅ、ちと散歩がてらさっき見つけた神霊具(プラーナ・ツール)の店に行ってくらぁ」
「あまり遅くなるなよ。レイモンドさん達にも迷惑かけるぞ」
「わーってるって」
「ああ、お戻りになる時は裏口からお入り下さい。これが、裏口の鍵となってますので」
カインとコウのやり取りを聞いていたレイモンドが会話に入ってくる。レイモンドは言いつつ、コウに鍵を手渡す。
「ありがとさんです」
コウは鍵を受け取って、玄関で身支度を行う。その隣ではルキアも身支度をしていた。
「お前も来るのか、ルキア?」
「いいじゃないのよ〜、夜道を一人で歩くなんて寂しい事この上ないわよ?」
「ま、それもそーだな。んじゃ行くぜっ、ルキア」
「ほいほ〜いっ」
「ふいぃ〜、流石にちっと食いすぎちまったな…」
「凄い食べっぷりだったわよね〜。ユリ根と赤キスのドリア、5皿も食べるんだもん」
「いやだって…メチャクチャ美味かったし、それにすっげぇ腹減ってたからよ…」
「でもあのドリア、ホントに美味しかったわ〜。あたしも後でサラに作り方聴いとこ」
夜道を歩きつつ、他愛もない話をしていたコウとルキア。ふと不意に。
「ルキア…気づいてっか?」
「もちろんよ。で…どうするの?」
「こうするんだよ。おい…その辺に潜んでる連中、とっとと出て来い」
「判りやすいわねぇ〜」
コウが声をかけてから暫し、6人程の黒づくめの集団がガス街灯の陰から姿を現す。
「何モンだ…てめぇら」
「町長に雇われた者達だな…悪い事は言わぬ、命が惜しくば手を引け」
「そして、この話は忘れろ。さすれば悪いようにはせぬ」
「そう言われて、大人しく引き下がると思う〜?」
ルキアが黒づくめに向かって言い放った刹那、黒づくめの一人が懐からダガーを抜き放ちざまに斬りかかった。
ギィィン!!
ルキアは素早く腰の後ろのホルスターに収納していたトンファーを取り出し、ダガーを受け止め、捌く。
「どうやら…交渉決裂みたいね〜」
「どうせ元から交渉する気なんざさらさら無ェんだろ…?」
「フン…むざむざ死なずに済んだものを…! やれェェェい!」
その号令の元、黒づくめの集団が一斉にコウ達に向けて襲い掛かる。
「おら来いっ!!」
コウは背にホルスターごと身に着けていた刀環を抜き放ちながら黒づくめを挑発する。
「キエェェイイ!!」
怪鳥声と共に、黒づくめの一人が何時の間に抜き放ったダガーでコウに斬りかかる。
コウは上体を反らしてそのダガーを避け、その勢いを利用して回し蹴りを放つ。
回し蹴りをしっかりと受け止める黒づくめ。だが、コウの反撃はこれだけに留まらない。
そのまま蹴り足を振り抜いて体を捻り、刀環を横薙ぎに振り払う。
さらに同じ連撃をもう一度立て続けに放つ。
流れるような連撃を受け、吹っ飛ぶ黒づくめ。
「よっ、と!」
ルキアも構えたトンファーを縦横無尽に振り抜き、向かってくる黒づくめに牽制、あるいは攻撃を仕掛けている。
ルキアに向かってきた二人組も連携して攻めようとはしているも
のの、ルキアの連撃の前にそれもままならない状態にされている。
「どうしたの〜、二人がかりでその程度?」
「舐めるな、小娘がァ!」
ルキアの挑発に黒づくめの一人が激昂し、ルキアに襲い掛かる。
「止せ、引かぬか!」
「うるさい!!」
仲間の忠告も無視して。ルキアに単身で攻めかかるが。
「ティ…ヤアッ!!」
ドゴォ! バキッ! ズガァッ!!
ルキアの繰り出した肘打ちからのトンファーによる突き上げ、踵落しの容赦ない三連撃。
ものの見事に三撃全てクリーンヒットし、この連撃を受けた黒づくめが地に伏せる。
「どうする、まだやるの〜?」
余裕たっぷりの表情で、ルキアは残った一人に言い放つ。残った一人は躊躇う事無く飛び退り、コウに追撃を仕掛けた。
「あ〜、卑怯者〜!!」
ルキアは慌ててコウの元へ援護へ走る。
「くっそ! ルキアは、一体、何やってやがんだ、っての!!」
残る4人を同時に相手にしていたコウは言葉を途絶えさせながら毒づく。さらにルキアと刃を交えていた一人がコウを攻撃し始める。
「おいおい、こりゃマジでシャレになってねーって!!」
コウも何とか凌いでいるが、この事態に慌て始める。不意にコウの死角から、防ぎきれなかった刃が飛んでくる。
(ヤベ…ッ!!)
ガキィィン!!
胸中で毒づいた刹那、鋼が弾かれる音が辺りに響いた。
ルキアがトンファーでその刃を防いだのだ。
「ゴメンね〜、コウ、遅れちゃって〜!!」
「焦ったぞ、今のは〜!!」
助けに入ったルキアを、ホッとした表情で向かえるコウ。
「よっしゃ…こっからが本調子だぜ…行くぜ〜、ルキア!」
「オッケ〜! んじゃ、行くわよ〜!!」
『ハアアァァァァ!!』
吼えながらコウとルキアは黒づくめの集団の中へと切り込んだ。
「色々好き放題やりやがって〜、メチャクチャ頭来てんだぜ、オレ!!」
叫びながらさらに加速するコウ。
そして、ルキアより一足先に黒づくめの集団の中に切り込むや否や、凄まじい速度で連撃を繰り出す。
そして、嵐の如き勢いで黒づくめ達を斬り伏せて行った。もちろん、死なない程度に手加減が加えられた上で。
「あらら〜、こりゃあたしの援護なんて、要らないんじゃないの…?」
思わず呟くルキア。その証拠に、ルキアが呟いた直後、最後の黒づくめが地に伏せた。
痛みと悔しさで呻く黒づくめ集団。コウはその一人の胸倉を掴み。
「さーて、洗い浚い吐いてもらうぜっ。誰に言われてオレ達を襲ったんだ?」
「ふ…そう言われて素直に応じると思ってるのか…?」
黒づくめが言うや否や。
「爆炎球!」
零距離に等しい至近距離で炎の神霊気法が炸裂した!
「コウ!!!」
ルキアはコウの安否を気遣う。しかし。
「あっぶねーな、いきなり何しやがる…!」
コウはとっさに気法で結界を張っていた。服や顔にも焦げや煤は付いておらず、無傷である。
「大丈夫〜、コウ?」
「ああ、なんとかな〜。しっかし…連中、今の爆発のドサクサ紛れで逃げやがった」
「あの連中…何者なんだろね?」
「判んねーけど、何か一枚噛んでそうな気がすんだよな…とりあえず、戻ったらカイン達に今の事、話しておこうぜ」
「そだネ…」