Chapter.3

「申し訳ありませんでした…まさか入院していた者達の容態がいきなり急変していた事を知らずに…」
「医師の話だと、今日の昼頃急に悪化していたんでしょう? それなら、レイモンドさんが知らなくても無理は無いですよ」
「本当に申し訳ありません…せめて、その様に言って頂けると気が和らぎます…」
謝罪するレイモンドに快い態度を見せるカイン。
レイモンドは、本当に済まなそうに、しきりにカイン達に謝罪を繰り返していた。

あの後。カイン達はレイモンドの案内で怪我人達の収容されている病院へと向かった。
しかし、急に患者たちの容態が悪化してしまったために、結局会えず終いになってしまったのだった。
病院から出て、中央広場に着いた時はスファウルの刻・2時。もう夕方だった。
宿は自分の家を使うといい、とレイモンドの言葉に甘えてカイン達はレイモンド亭へと向かおうとしたその時。

「魔物だ〜!!」
「に、逃げろ〜!!!」
「た、助けて…!!」

突如、背後から悲鳴が聞こえた。
カイン達が反射的に後ろを振り向くと、まさにまだ年端もいかない男の子が魔物の群に襲われようとしていた瞬間であった。

風矢撃エア・アロー!」
舞水弾アクア・ショット!」
炎烈弾フレア・ファランクス!」
地石弾ストーン・ブリット!」

4人は咄嗟に其々の行使属性の神霊気法を放つ。しかし、狙いは魔物達ではない。
魔物達のその足元である。自分達に注意を引く為に、気法を放ったのだ。
放たれた気法は狙い過たずに魔物達の足元へと着弾する。
その気法の着弾の音を耳にした魔物達は、すぐさまカイン達に向かって振り返る。
どうやら、魔物達はカイン達を標的と定めたようである。
「カイン今だ!」
コウが叫ぶ。
「判ってるッ!」
返答するが早いか、カインは駆け出していた。魔物達に生じた一瞬の隙を突き、カインが男の子を救出する。
「さあ、早く逃げて」
サラが優しく男の子に声を掛ける。男の子もサラに促されて走り出す。
「レイモンドさん! 早く街の人達を安全な場所に避難させてあげて!」
ルキアがレイモンドに叫ぶ。
「はい、判りました!!」
レイモンドもその場をカイン達に任せ、近くに居た街の人と手分けして逃げ遅れた人達の避難を行い始めた。

「さてと…それじゃ、そろそろ魔物退治と洒落込みますかねェ」
コウが不敵な笑みを浮かべる。その手には既に武器の刀環を構えていた。
「みんな、行くぞッ!!」
『OK!!』
カインの号令の下、4人は散開する。この状況では、各個撃破を行った方が手っ取り早い。

「タァァァ!!」
ルキアが武器であるトンファーを手元で旋回させつつ、間近に居たトロルに駆け寄る。
トロルはルキアに向かって爪を振り降ろすが、ルキアはそれを更に踏み込む事で避ける。
トロルの懐に踏み込んだルキアは、そのぶ厚いトロルの胸板にトンファーを横薙ぎに叩き込む。
加速と遠心力のついた攻撃をまともに受け、トロルは堪らず怯む。
その隙を逃さず、更に突き、下方から払い上げ、上方から打ち下ろす。
この連撃にはさしものトロルも耐えられず、苦悶の唸り声を上げつつ血を吐き流す。
「このまま終わりにしてあげるッ…行くわよ、降岩衝ロック・ミサイル!!」
その隙を逃さず、ルキアは気法を発動させる。幾つもの鋭い岩の破片が、トロルに向けて豪雨の如く降り注ぐ!!

ずぅぅぅぅぅ…ん

ルキアの気法をまともに受け、トロルは大音響と共に倒れ伏す。
「よっし、終わり終わり!」
ルキアはガッツポーズをとりつつ、力強く叫ぶ。

「ッラァッ!!」
コウは、目の前に居たキマイラに向けて刀環を突き出す。
しかし、キマイラはその翼で空に逃げつつ、そのままコウ目掛けて空中から突進してくる。
キマイラの突進をギリギリまで引き付けてコウは避ける。
避けるや否や、コウは再びキマイラに刀環を振り下ろす。
今度はキマイラも突進直後で体制を崩しており、コウの一撃を避けられなかった。
コウの刀環を首筋に受け、苦痛にのたうつキマイラ。しかし、コウを睨むその眼はまだ炯々と輝いている。
キマイラが怯んだ所を一気に畳掛けようと、コウは追い縋る。
しかし、キマイラも残った力を振り絞って、コウに嘴を突き出して反撃するも、コウは易々と刀環でキマイラの嘴を斬り払う。
金切り声のような悲鳴を上げるキマイラに、コウは不敵な笑みを浮かべてにじり寄る。
「ヘッ、いい根性だな…だが、それだけじゃオレには及ばねェな。悪りィが…オレを恨むなよ? 炎咆波フレイム・ブラス!!」
言いつつ、コウは炎の気法を放つ。コウの掌から炎が延び、キマイラに纏わりつく。
瞬く間も無く、キマイラは灰燼へと姿を変えた。

マンティコアと対峙するサラ。
マンティコアは毒針のついた尾を繰り出す。サラは槍でその尾を難なく打ち払う。
尾を打ち払われたマンティコアは尾による攻撃を諦め、今度はサラに向かって飛び掛ってくる。
「ヤァァァッ!!」
飛び掛ってくるマンティコアの眉間を、サラは槍の柄頭で突く。
カウンターとなったサラの一撃。その直撃をくらい、のけぞるマンティコア。
間髪入れずにサラは槍を突き出す。今度は柄頭ではなく、刃先での突きだ。
肩口に槍の一撃を食らうマンティコア。短い悲鳴の後、低い唸り声を上げてサラを威嚇する。
続けざまにサラは槍を低く構えて横薙ぎに払う。マンティコアの脚を狙った攻撃だ。
倒れはしなかったものの脚に一撃をくらい、マンティコアはバランスを崩す。
「これで…終わりよ! 冽水牙弾アクア・クォレル!!」
高圧力をかけられた水矢がマンティコアの胴体を抉り、風穴を穿つ!
気法の直撃をまともに受けたマンティコアは倒れ伏す。
暫くの間、マンティコアの体はぴくぴくと痙攣をしていたが、次第に動かなくなる。
「ごめんなさい…せめて、安らかに眠って」
サラは、静かに今しがた仕留めたマンティコアに黙祷を捧げる。

「テヤアァ!!」
カインは、ケルベロス目掛けてブーメランを振り被り、投げ放つ。
ケルベロスは身を低くしてブーメランを避け、カインに炎を吹き掛ける。カインはその炎をギリギリまで引き付けて避ける。
カインが炎を避けたとほぼ同時に、ケルベロスの背後から、先程カインの投げ放ったブーメランがケルベロスの後頭部に襲い掛かる。
ありえない方向から不意打ちを食らい、ケルベロスはもんどりうって倒れる。
カインは一気にケルベロスを仕留めるべく、気法を発動させた。
「一気に決める…嵐衝砕波ストーム・インパクト!!」
カインの掌から、圧縮された嵐が解き放たれる。嵐はケルベロスの捉え、その体を高々と空中へ舞い上げる。
嵐から解放されたケルベロスは勢い良く地面へと叩きつけられ、そのまま動かなくなる。
「悪く思うなよ」
カインはもはや動かないケルベロスに、冷たく言い放つ。

「ひとまず…終わったね」
魔物を全て蹴散らしたカイン達。ルキアは、皆に向けて言う。
「とりあえずは…ね。しかし、この魔物達、何処から出て来たんだ…」
ルキアに控えめに賛同した後、自分が抱いた疑念が続けて言葉となってカインの口を突く。
「それはこれから調べるしかないけど…手がかり、あるのかしら…」
「さてな…それは、やってみるしかねーんじゃねェの?」
サラの不安に、軽口で答えるコウ。カインもコウの意見に頷き。
「とにかく明日から…レイモンドさんの言ってた邪教団に調べを入れてみるか…」
自分の考えを口にした。

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