Chapter.10
「グググルルルゥゥゥ…」
黒尽くめたちの全身に悪魔族の血が完全に行き渡ったのか、完全に人語が話せなくなっていた。
血走り、瞳孔の無くなった眼でカイン達を睨みすえて来る。
カインも、感情の燈らない瞳で魔人間達を見据える。
「悪いがお前達を完全に葬らせてもらう…悪く思うな」
声にも感情が宿っていない。
「皆…行くぞ。証の気法を使う」
カインの声色から伝わる寒々しさに思わずぞっとしながらも、3人はカインに続いて錬気・還元を行っていく。
やがて程なくして錬気・還元が終わり、カイン達は詠唱と構成を同時に行ってゆく。
─大気の脈に生命ある 無限の時空を渉るるもの 汝の名は風
その力 その意思 我が元に集いて
我が前に在りし万物の魔性に 猛り叫ぶ轟嵐となりて裁きを齎せ─
─大いなる空より降り立ちし 澄み渡る流れとなりしもの 汝の名は水
その力 その意思 我が元に集いて
我が前に在りし万物の魔性に 唸り轟く津波となりて裁きを齎せ─
─大地の底より覚醒たる 熱き力をもたらすもの 汝の名は炎
その力 その意思 我が元に集いて
我が前に在りし万物の魔性に 螺旋を描く蒼炎となりて裁きを齎せ─
─この世に在りし命を支え その存在の基盤たるもの 汝の名は地
その力 その意思 我が元に集いて
我が前に在りし万物の魔性に 邪斬り裂く剣となりて裁きを齎せ─
言魂(ワード)の詠唱を終えた4人の身体を不思議な輝きに包まれる。
カインは緑、サラは水色、コウは赤、ルキアは茶。神霊色─それぞれの神霊を象徴する色の輝き。
正確に言うと、凄まじく濃密な神霊気に包まれていた。
カインが、サラが、コウが、ルキアが。構成を行う際に集中するため、閉じていた眼を開く。
眼を開いたカインの面には、先程のような仮面のような表情は無い。
怒りと、哀れみとが交じり合ったような、複雑な表情を表していた。
「俺の名は、カイン・ヴィクトリィ。緑の西風にして、二十重の希望を紡ぐ者! 風の神霊選択者!」
「私の名は、サラ・ブイ。水色の静流にして、慈愛の流れを運ぶ者! 水の神霊選択者!」
「俺の名は、コウ・カルマート。紅の劫炎にして、挫けぬ勇気を宿す者! 炎の神霊選択者!」
「あたしの名はルキア・フェルマス。茶色の大地にして、気高き夢を育む者! 地の神霊選択者!」
神霊選択者としての名乗りを挙げる4人。
『魔に魅入られし者達よ…無へと還れ! 我ら神霊選択者の名の下に!!』
「轟嵐烈風波!」
「裁魔大波曝!」
「螺旋蒼滅炎!」
「地神裂斬剣!」
カイン達は同時に証の気法を発動させた。
爆発的な風刃の轟嵐が。
荒れ狂う怒涛の津波が。
螺旋を描く蒼碧の滅炎が。
大地すら斬り裂く烈気の地剣が。
魔を滅ぼさんと唸りを上げ、魔人間たちに襲い掛かる。
「グゴ、ガ、ガ、ガガガァァァ……」
風刃の轟嵐が斬り刻む。
怒涛の津波が圧し潰す。
蒼碧の滅炎が焼き砕く。
烈気の地剣が断ち斬る。
容赦の、慈悲すらない証の気法。魔を決して許さぬその力をまともに受け。
魔人間たちは、刹那の呻き声をあげ、苦悶の咆哮と共に消滅していく。
「終わった、ね…」
ルキアが皆に言う。
「おうよ。ま、俺らの手にかかりゃ楽勝だけどな」
軽い口調でコウは言う。
「でも、ちょっとびっくりしたわ。カインがいきなり証の気法を使おうって言い出した時」
サラがカインに向けて少し悪戯っぽく問いかける。
「誰にも見られてないし、それに何よりティアギスの容態が心配だったからね。
早く決めるにはこれしかなかったから」
カインは少し自戒の篭った口調で答えた。
「さ、とにかく早くヴェントに戻ろう。
やらなきゃいけない事もまだあるし、アストアへの岐路を急がないと」
口調を改め、明るく皆に話しかけるカイン。
「うん、そうね。アストアでみんな待ってるわ」
「あいつら待たすとうるせぇからなぁ…とっとと終わらせようぜ」
「でも、みんな元気かな〜? なんだか久々に会うような気がするわね〜」
思い思いに口を開き、ヴェントタウンへの、そして故郷アストアへの帰路を歩く4人。
しかし、アストアに着いて以降、否応無しに世界の命運をその身に委ねられる事になる。
彼らは未だ、その未来を知らない。
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