聖なる祭り夜に・再臨

「嬉しいな〜。こうしてまたカインとこの感謝祭の日を一緒に過ごせるなんて…」
「ふふ…俺もだよ、サラ。あまり長くない時間だけど、一緒に楽しもうね」
「うん! 行きましょ、カイン」

天馬の月の30日。この日はここ双造大陸グラストリアにおける、神霊への感謝祭の日である。
この日、グラストリアの民達は皆こぞって街の屋根屋根を飾り立て、夜には街ごとに宴を開く。

街は喧騒に包まれ。あっという間に賑わう。
ある人々は思い思いに杯を掲げ、神霊たちへの賛美歌を歌いながら酒を飲み交わす。
またある人たちは飾られた街並みを見て、語らいながら歩く。
そして、ここにも一組の男女が、街並みを歩いていた。

うなじで一括りにした緑色の長髪に、切れ長の瞳は深紅。その長髪と揃いの色のマントに身を包む青年。
彼の名は、カイン・ヴィクトリィ。
明るい水色の長髪をポニーテールに束ね、愛らしく円らなライトブラウンの瞳。そしてその髪の同色のマントをその肩に羽織っている女性。
彼女の名は、サラ・ブイ。
二人ともロングコートの上から、自らの身分の証となっている、自分の髪と同色のマントを羽織っている。

二人は露店でチャイとクッキーを買って、それを食べながらゆっくりと街を歩く。
チャイに加えられたショウガとナツメグのほの辛さと、その後から広がってくるメープルシロップのあえやかな甘味が口に広がる。

「ね、カイン」
「? どうしたの、サラ?」
「初めて感謝祭の日に二人でデートした時の事…覚えてる?」
「ああ…もちろん、覚えてるよ。あの時、一緒に食べた物も覚えてるし」
「うん…美味しかったよね、あの時食べたフィッシュ・アンド・チップス。
お互いに食べさせあいっこしたもんね」
「そうだったね。けど、そのお陰でいつも以上に旨かったような気がするよ」
「うん、美味しかったよね…間違えてカインの指も舐めちゃったりしたよね」
「あれはちょっとビックリしたよ、サラ…」
「えへへ…ごめんなさい」

ふと、サラが足を止める。それに合わせてカインも足を止める。
サラはカインの前に出て向き直る。

「ねぇ、カイン。覚えてる? あの時、雪が降って来た事」
「もちろん…覚えてるよ。あれは本当に幻想的だったよね。
俺もあの時は…本当に奇蹟って起こるんだな、って思ったよ」
「それもあるんだけど…そのちょっと前にカインが私にやってくれた事は覚えてる?」
「忘れるわけ…ないだろ?」
そう言うと、カインは背中越しにサラを抱き締める。
そして自らの着ていたロングコートを閉じていたボタンを空け、その中にサラを招き入れる。
サラは顔を赤らめて。
「ありがとう…暖かいな」
「俺も…とても暖かいよ。最近、サラの温もりが愛しくて堪らないんだ」
「…嬉しい。カインにそう言って貰えると…。
私も、カインの暖かさがとても好きなんだ」
背中越しにサラの背中越しに見つめあい、微笑む二人。ふと、突風が街を駆け抜ける。
思わずカインはサラをしっかりと抱き止める。
「サラ、大丈夫? 寒くなかったか?」
「ありがとう、カイン…大丈夫よ。全然寒くなかったわ」
二人は再び背中越しに見つめあい、微笑みを互いに返す。

暫し二人はその体勢のままで、語りだした。
「またこれから雪が降ってきたり…しないかな?」
「流石に…これで雪が降ってきたりしたら、俺は奇蹟を本当に信じることにするよ」
などと言っていると。

周囲の空気がゆっくりと、ゆっくりと冷えて行き。
黒い帳の降りた空から。

はらはらと。

ひらひらと。

淡雪が。
細雪ささめゆきが。

宵闇のそらから舞い降りてきた。

「嘘…だろ」
「本当に…降って来たわ…」

さすがに信じられないと言った呈で。
カインも。サラも。
唖然としながら夜空を見上げていた。

「カイン…!」
「本当に…奇蹟が起きたね…サラ!」

思わず声を弾ませるカインとサラ。そして二人は改めて夜空を見上げる。
「綺麗…」
「本当だね…」

不意に、サラがカインのコートの中で向き直る。そして少し悪戯っぽい微笑みを浮かべて。
「ね、カイン…あの時みたいにプレゼント交換…する?」
その微笑みを見たカインも微笑み返して。
「ああ…いいよ。プレゼント交換、しようか」

言うが早いか。
カインはサラの背に手を伸ばして、優しく、しかししっかりとサラを抱き寄せる。
サラもそれに合わせて、カインの背に手を伸ばし、カインを抱き締める。そして暫し見つめあい。
どちらからとともなく目を閉じて。
互いに顔を近づけて。
口付を、交わした。

F        I        N


†筆者あとがき†
クリスマス・ショートショートの第2弾です。
第1弾でやった「聖なる祭り夜に」の翌年の話としてこの物語を書きました。
基本的にやりたい事は第1弾と同じだったので、シチュエーションやカップリングは特にいじらずに行きました。
やっぱりクリスマス小説は主人公・カイン君とヒロイン・サラちゃんの超ラブラブッぷりを書きたくなってしまうという末期症状ですが何か?(核爆)
まあ、今後は残る3組のカップリングのクリスマス小説も書いてみたいです。
さすがにカイン君とサラちゃんの物しか書かないと他のキャラたちに文句言われそうな気がするので…。(汗苦笑核爆)

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